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晩秋の森で

2005年11月9日サイト初掲載作品

立ちはだかる壁を思わせる、真っ白な霧の包囲網に行く手を阻まれて次第に身動きが取れなくなる。
圧倒的な威圧感を漂わせながら晩秋の森に君臨する『沈黙』は、微かな音さえ発する事を赦さない。
二歩、三歩と後ずさりする時に踏んだ、枯れ木の乾いた音は瞬く間に『沈黙』の懐の中に呑み込まれ、跡形も無く消え去るのみ。
音を発したことさえ即座に抹消してしまうほどの強大な沈黙は、今現在ここにいる自分の存在さえも、すぐに消し去ってしまう威力をちらつかせつつ、徐々に逃げ場を失わせていく。

どこに行っても白い霧の壁が付き纏い、どこへ逃げても容赦なく襲い掛かってくる沈黙に抵抗する術さえ放棄し、悲鳴を上げる事すら出来ず『絶望』という言葉が頭の中を過ぎった瞬間

奇跡は起きた。

「ひとりで全てを抱え込もうとしたら、君自身が潰れてしまう」

穏やかな声と共に背後からそっと掛けられた、暖かな深緑のストールが私の身をすっぽりと包み込む。
纏わりつく白い霧は、貴方の優しい声が響き渡った瞬間から空中で緩々と溶け落ちて、足元を被い尽す枯葉の上に透明な亡骸を晒した。

僅かに綻んだ沈黙の穴から零れ落ちていく音の欠片は、確かな響きを私に齎し始める。
貴方の声が導いて、私が貴方と共に目指す道の在処を指し示すように。

「行く手を阻まれているのなら、無闇に動かないことだ。動く分だけ君が傷ついてしまうから」
「・・・島さん!」

私の心にジワジワと染み透っていく、貴方から伝わってくる無垢な言葉の欠片達。

「一緒にいるよ、霧が晴れても。・・・ひとりよりもふたりなら、多少は心強い・・・はずだよね?」

溢れ出す涙を貴方に見せないように、ストールの中に顔を埋めたまま咽び泣く私に、貴方は肩にそっと手を掛けて静かに言葉を紡ぎだすのだった。

「・・・いつか必ず、霧は晴れる。どれだけ時間が掛かってもいつかは必ず晴れる!・・・だからそれまで君が迷わないように、傷つかないように・・・僕はずっと君の傍にいるから」

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