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永久に続く思い

2003年7月7日 サイト初掲載

ドアを開けた途端に俺を招き寄せようとする闇の密やかな誘い。
そこに足を踏み入れた瞬間に現実の時間と遮断されるような錯覚に陥る。
まるでどこかの密林地帯に入り込んでしまったように周囲をぐるりと取り囲んだ
棚には莫大な数のデータ類が整然と並んでいた。

ヤマト艦内ではおそらくあまり人が訪れたことがないであろう航海データ記録室に
入り込んだ俺は暗い部屋の中をぐるっと一通り見回した後、両手を力いっぱい握り締めながら
唇をキュッと噛み締めた。

どんなに時間が掛かっても・・・必ず探し出す!

決意を秘めた想いが闇の中で一瞬だけ煌きながら儚い夢を紡ぐ。
胸に秘めた決意に同調するかのように僅かに揺らめいた時間が俺の背中をそっと後押しする。

緩やかに漂う時間の中で一回だけ大きく深呼吸して、一番手近にあった棚にそっと手を伸ばした
まさにその瞬間だった。

「お前が探そうとしているモノはこれじゃないのか?」

いきなり背後から掛けられた声にびくっとして後ろを振り向くと、ドアの入り口に凭れかかったまま
逆光の中で小さく笑みを漏らして俺を見つめている人影に見覚えがあった。

「・・・真田さん!どうして此処に?!」

思いがけず声を掛けられた驚きとまるで俺の行動を予期していたかのように余裕の面持ちで
語りかける真田さんの姿に頭の中が一瞬にして混乱に陥る。
混乱する気持を立て直す為に気持を落ち着かせようとするが、思いもよらない展開に
ますます混乱に拍車が掛かるだけだった。

「島・・・お前がヤマトに乗り込んだら一番最初に此処を訪れると思ってな。
事前にアナライザーに頼んでこのデータをピックアップしておいてもらったんだ」

その言葉と共に真田さんが差し出した掌の中には小さいマイクロテープが載せられていた。

「これは・・・お前にとって・・・何より大切な『モノ』・・・なんだろ?」

「・・・真田さん・・・」

喉の奥で言葉が詰まったまま・・・最後まで紡げない。
何かを言い掛けようとして口を開きかけたが・・・その後、言葉が発することはなかった。
胸の中で渦巻く様々な想いが俺の体の中を駆け巡っては、微かな痛みと消せない記憶を呼び起こしていく。
心の奥に人知れず大切に仕舞い込んでいた透明な想い出が優しい気持に包まれて清らかな願いと共に
心の空に向けて静かに浮かび上がる。

ずっと・・・ずっと見つめ続けていた・・・
ずっと・・・ずっと思い続けていた・・・

いつも、どんなときでも俺の心の中で色褪せることなく生き続けている優しい面影が・・・
一際鮮やかに煌いて俺の心にそっと寄り添う。


真田さんが差し出したモノを震える手で掴んだ俺はそれを両手で大切に包み込むと、胸にそっと
優しく押し当てながら胸の中で小さく呟いた。


・・・テレサ・・・


目を瞑って黙り込んだまま、後から後から押し寄せる尽きぬことのない思いを噛み締めている俺に
真田さんの冷静な声が届いた。

「・・・島・・・お前はこれから先もずっと・・・このままテレサを・・・」
「真田さんっっ!!」

言いかけた言葉を遮断するようにして言葉を放った俺に目を見開いて驚く真田さんの姿が瞳に映る。
かつてないほど激しい口調で言い返す俺に真田さんも・・・そして俺自身も驚いていた。
静まり返った部屋の中で時だけが静かに過ぎ去っていく。


程なくして真田さんに向けて話し出す俺の声はいつになく落ち着いた声に戻っていた。

「真田さん・・・貴方が俺を心配して下さっている気持はとても嬉しいですし、心から感謝してます」

「・・・島・・・」

「・・・真田さん・・・俺の顔を見てやってください。俺の表情(かお)は哀しみに沈んだ顔をしていますか?」

「・・・島・・・おまえ・・・!」

絶句したまま動けない真田さんの瞳の中に俺が映っていた。
真田さんの瞳を通して見える俺の表情は・・・今まで見たことがないくらいに穏やかで優しい顔を
しているように思えた。

「・・・人を想い続けることに【終わり】はないのだと・・・俺は・・・信じていたいんです。
いえ、信じているんです!」

・・・無言の時間が流れた。

止まったままだった時間を動かす合図のように真田さんは小さく吐息を一つ零すと、
俺の肩にポンと軽く手を置いてサバサバとした口調で俺に話しかけた。

「・・・島・・・俺はもうお前に言う事は何一つないよ・・・。強くなったな、おまえ」

「いいえ、俺は強くないです!・・・それよりもむしろ・・・俺の中で生き続けている彼女と
一緒に生きようと願う気持が俺をそうさせてくれるんだと思ってます・・・」

言い切った後で真田さんを見つめると俺の方を見てニヤリと笑い返していた。
俺もそれを見て堪らず笑みが零れる。だんだんと大きくなる笑い声はデータ室の中でいつまでも
響きあっていた。

*************************************

自室に戻って真田さんから受け取ったマイクロテープを再生装置に入れると、スイッチを静かに押した。

『・・・島さん・・・もう一度・・・逢いたい・・・もう一度・・・逢いたい・・・島さん・・・もう一度・・・』

ボイスコーダーに残されていたテレサの声が・・・柔らかな想いを伴なって俺の心に降り注ぐ。
彼女の透き通る声が・・・俺の心を・・・静かに濡らしていく。


・・・テレサ・・・俺達は・・・ずっと一緒だ・・・いつまでも・・・永遠に・・・

そっと左手の手袋を外して指先に視線を落す。
薬指に填められたマリッジリングがキラッと光り輝いて緩やかに時間を止める。
終わることのない想いは二人の心を繋ぎとめたまま、永遠の道程を歩み続けていく。

いつまでも・・・いつまでも・・・。

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