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変化の自覚 〜字書きの為の50音のお題より〜

2005年7月4日 サイト初掲載作品

時間が経過していくという概念を凍らせていく意識。
息をすること以外、自分が今、この現実に生きているという実感を認識できないほどに固まったまま、動き出せない身体。

去っていく貴方の背中を見届けた瞬間に止まってしまった思考は、壊れたオルゴールのように何遍も同じ旋律を頭の中で繰り返す。


「君を見殺しに出来ない」


切羽詰った表情と私の肩に掛かった貴方の手の温もりが、忘れかけていた『人としての感情』を少しずつ・・・少しずつ蘇らせていく予感に、身体が訳もなく震えだす。
混乱するだけだった意識をどうにか捻じ伏せて、次に自分は何をするべきか考えようとする前に、無意識に動いた手は宙を切り、ビデオパネルの画面が自動的に投影され始めた。

「・・・あっ・・・」

沈黙した宇宙空間以外に何も映っていないはずの画面には、まるでそこにいるのが当然だというようにヤマトが、その圧倒的な存在を見せ付けたまま鎮座していた。
どうして?と思うよりも先に、ここ数日ずっとヤマトと交信し続け、ようやく今日メッセージの意図を確認しに来た来訪者をテレザリアムに迎え入れた状況すら、意識の片隅に押しやってしまうほど・・・心が落ち着かない自分がいた。

ビデオパネルを投影させてヤマトの針路状況を逐一確認し、ヤマトに向けメッセージを入電することが至極当然の行動であるかのように、慣れきってしまった意識と現状に声を失う。
いえ、それ以上に・・・通信越しでほんの短い時間だけ会話する島さんとの対話に、自分ではその時は気が付かなかったけれども、事細かに神経を集中させていた紛れもない事実に気が付いて。

きっとそれは・・・ずっと孤独だった自分が、久しぶりに人と会話したせいであるから・・・という理由付けも、即座に自分で打ち消さなければならないほど、少し前に出逢った貴方の存在が、次第に心の中で大きくなってきていて。


色が無く冷たい印象のまま目に焼きついていたテレザリアムの室内が、島さんが入った途端に何故か一瞬だけ鮮やかな色に変化したのは、決して目の錯覚ではなく・・・自分の心に漠然とした変化が生じ始めているという予感が湧き上がって、身体を密かに埋め尽くしていく。
でもそう簡単に自分の心を認めてしまう訳にはいかない背景を、嫌と言うほど分かっているから・・・どうしたらいいのか分からず、心は立ち往生したまま動けなくなる。

肩に優しく手を置いて、私にそっと話し掛けた島さんの穏やかな声が忘れられない。
肩口に置かれた手の温もりは、星を滅ぼしてしまった罪人としての私ではなく、同じ宇宙に生きている一人の人間としての接し方であった事を思い起こさせてくれるようで・・・知らず知らずのうちに、その温もりを忘れぬよう、肩をそっと抱きしめる私。
貴方に手を置かれた肩が心臓から放たれる鼓動と同時に疼いているようで・・・胸の奥が微かに熱くなっていく。


貴方ははっきりと仰った。
「僕は・・・ヤマトの乗組員です!」と。


一切の躊躇いもみせず、自信と誇りに満ちた威厳のある表情で私に向け、澱みなく言い切った。
貴方の立場からすればそう言い切るのが当然な筈で、私には貴方の言葉を咎める理由など一切ない。
いえ、寧ろ・・・島さんがそういう態度を取るだろうと予め分かっていたはずなのに、それでも訊かずにおれなかった私こそ・・・責められなければならない。
訊くまでもなく100%分かりきっているはずの答えなのに、どうしてあの時島さんに問い掛けてしまったのか・・・
自分の行いを顧みたとき・・・あやふやだった結論が、一つのはっきりとしたカタチへと変わっていこうとしていた。

島さんに即座に断言されると分かっていても、訊かずにおれなかった問い掛けの根本は、貴方の口からはっきりと答えを教えてほしかったから。
通信機越しではなく、はっきりと目の前で島さんからの答えを聞きたかったから。
他の誰でもない・・・島さん、貴方自身の声で嘘偽りない想いを私に直接言って欲しかったから!

・・・島さんから直に答えを貰って、本当なら満足しなければならない私なのに・・・何故か想像以上に落ち込んでいる自分を隠せない。
ある程度の胸の痛みは覚悟していたけれど・・・それでもすぐに痛みは治まるはずだった。
当初は。

・・・だけど痛みはどんどんと増大していって、気持ちを切り替えようとする私をことごとく痛みつけ、容赦なく蹴散らす。

唯一の誤算は・・・島さんに対して自分でも測り知れないほど、心が傾いていた私自身なのかもしれない。


再び静まり返った部屋の中で虚ろな瞳のままビデオパネルを見続ける私の口から・・・

「島さん・・・もう一度逢いたい・・・」

という言葉の断片が、胸の奥に潜んでいた想いを伴って無意識のうちに放たれていった。

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