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遅すぎた告白 〜字書きの為の50音のお題〜

2005年2月14日 サイト初掲載
(バレンタインデーネタです)

『・・・なおチョコレートの効能については、一般的に血圧上昇抑制作用、血清コレステロール濃度の抑制作用、便秘予防、抗ガン作用そしてストレスの緩和などが挙げられます・・・』

雑音(ノイズ)と共に締め括られた声が、何故か耳にこびり付いて離れない。
夕食を作りながらふと耳に滑り込んできた言葉は、その瞬間だけ鮮明な音を記憶の片隅に刻み込んだ。


「・・・何か身近に『音』を感じていた方が、少しは安心できるかもしれないから・・・」


と、任務で不在時の間、島が自分の為を思ってキッチンに持ち込んでくれた携帯ラジオは、
また普段と変わらぬ様子でクラシック音楽を流し始めた。
番組構成の隙間を縫って届けられるニュースを、いつもなら聞き流す程度にしか気に留めていなかったはずなのに、何故か今日だけは胸の中に何かが湧き出るような予感に包まれていて。


・・・そういえば、先日買い置きしてあったチョコレートがあったはず・・・


呼び起こす記憶の傍らで、胸騒ぎにも似たときめきが身体の中を駆け抜けていく。

・・・最近ずっと、お仕事で毎晩遅くまでお忙しそうだったから・・・。
私に出来ることは、ほんの・・・ほんの些細な事でしかないけれど・・・
少しでも島さんのお体が安らげるのであれば・・・!

胸の奥深くに微かに灯りだした小さな灯りに気付いて・・・テレサの眸に煌きが宿る。

島の帰宅時間はすぐそこまで迫っていた。

*****

「・・・ただいま」

残業続きの毎日にしては珍しく・・・というか、今日は問答無用で勤務先を追い出されたというべきか・・・
早く帰宅した自分にテレサから温かい飲み物が手渡された。

「お帰りなさいませ。お仕事お疲れ様です。・・・もう少しで夕食になりますから、申し訳ありませんがこれを飲んでしばらく待っていただけますか?」

彼女にしては珍しい、自分に対する御願いにも似た口調に、しばし意識が削がれる。
どことなくテレサの様子が嬉しそうに思えるのは、今日は早く帰宅できたせいなのだろうか?という、僅かばかりの自惚れも自覚しつつ、「ありがとう、遠慮なくいただくよ」という彼女への感謝の言葉と共に一口口に流し込んだ途端・・・ドキッとした大きな胸のざわめきが、身体を突き抜けていくのが分かった。
一瞬止まりかけた意識の端の向こうで、カーッと火が点いたように火照りだす全身を止められない。


ま・・・まさか・・・!!!


強張っていく表情とは裏腹に、さっきまで外気に晒されて冷え切っていた顔が見る見るうちに真っ赤に染まっていくのが分かった。
その自分の表情を困惑して見続けているテレサの表情が次第に曇って、翳りが見え始めているのを、島は視界の端で捉えた。

「・・・もしかして・・・お口に合いませんでしたか・・・?」

少し歪んだ表情の奥で今にも泣き出しそうなテレサの顔を見た途端、焦る気持ちが全身を埋め尽くしながら、咄嗟に出た言葉。

「・・・テレサ。その・・・、この飲み物は・・・僕の事を思って作ってくれたのかい?」

途切れ途切れに出す言葉の端々に潜む動揺が、島の心情を包み隠さず物語っていた。

「・・・はい。チョコレートは疲れた身体に効能がある・・・とさっきラジオで聞きましたので・・・。
最近お仕事がお忙しいように見受けられる島さんに・・・飲んでいただきたくて・・・。
島さんの嗜好を考えずに自分勝手な気持ちを押し付けてしまって・・・本当にすみません!!!」

最後の言葉に滲んだ泪が、目に見えない飛沫となって部屋の中に撒き散らされていく。
その場に居たたまれなくなって、リビングを飛び出そうとしたテレサを島の叫びが止める。

「違うんだ、テレサッッ!誤解しないでくれっ!」

滅多に聞かない島の叫びが耳に届いた瞬間、自分でも不思議になる位に瞬時に身体が止まったのが分かった。
頬を伝い落ちていく一筋の泪の中に・・・島への想いが溢れ出ていた。

「・・・ゴメン、大声を出してしまって。・・・今日、君からホットチョコレートを手渡されるとは思っても見なかったから、つい・・・。もしかして間違っていたらゴメン。一応確認の為に聞くけれど、その・・・君は今日が何の日か・・・知ってる?」

穏やかに諭すような口調で話し掛ける島の言葉に、さっきまで混乱しきっていた心が次第に落ち着いていくように思えた。
まだ泪が乾き切らない顔を見詰められたくなくて、テレサは島に背中を向けたまま細切れに言葉を落とした。

「今日が何の日なのか・・・知りません。・・・ただ・・・最近残業続きの島さんの身体が心配で・・・たまたま聞いていたラジオで、チョコレートは疲労回復には効く食べ物だ・・・って、伝えていたので」

言いながら背後にそっと島が近づいてくる気配を、テレサはおぼろげに感じていた。
胸の奥がキュッと締め付けられるような痛みを自覚しつつ、テレサは身を縮込ませていた。
ふんわりと背中越しに凭れ掛かる感覚が伝わった途端、島が自分に対して背中合わせに立ち尽くしているのが分かった。
暖かな温もりが島の背中を伝って自分の背中に辿り着いてくのに気付きながら、ポツポツと零れ落ちていく泪。

「・・・テレサ。ありがとう。・・・この姿勢のままでいいから・・・僕の話を聞いてくれないか?」
「・・・」

テレサからの返答がないのを了承と理解した島は、頬を染めたまま天井を見詰めて、静かに背後の想い人に胸の内を語りかけた。

「・・・テレサ。今日は、バレンタインデーと言って一年に一度、女性が男性に告白してもいいとされている日らしいんだ。告白する際にチョコレートも一緒に付けて・・・っていうのがどうも一般的になってるらしい。かなりイベント染みているから、僕自身は気にも留めていなかったけれど・・・今日、君からホットチョコレートを淹れてもらって・・・その・・・びっくりしたと同時にとても嬉しかった。まさか君からチョコレートを貰えるとは思わなかったから。・・・今、話した事全てが僕の嘘偽りない、本当の気持ち・・・なんだ。」

背中から伝わる感覚で島が今、相当照れまくりながら自分に対して語り続けているのをテレサは感じていた。
不器用極まりない朴訥な語り口でポツポツと零す島の言葉たちが、自分に対しての真心そのものに彩られていると知って・・・テレサの心が濡れる。

「・・・島さん・・・」

ずっと黙り込んでいたままだったテレサの口から、静かに呼びかけられたのに気付いて島はそっと姿勢を正す。

「・・・もし今日という日がどういう日であるか事前に知っていたのなら・・・私、きっと・・・島さんにチョコレートをお渡ししたはず・・・です。心からの想いを込めて・・・」

きっと面と向かって言い難かったに違いない、テレサの言葉の欠片を胸の奥で大切に受け止めながら・・・
島は言い尽くせない想いに導かれるままに・・・背中合わせに立ったままのテレサの指先に、そっと自分の指先を絡め合わせた。

しっかりと結びついた心と心が決して離れないように、心からの願いを込めて・・・。

「・・・僕も君と同じ気持ちだ・・・」

絡め合わせた指先を静かに、でも力強く握り返すテレサの指先に込められた温もりに支えられて・・・
二人の心は一つに解け合っていく。

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