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息が出来ぬほど 〜字書きの為の50音のお題より〜

2005年7月12日 サイト初掲載作品

虚空を彷徨い続ける、行き場のない心。

行き交う言葉の影で、心の奥底に閉じ込めた想いが悲鳴を上げ続ける。

何もかも投げ捨てて、貴方の胸の中に飛び込んでしまう事が出来るのであれば・・・!

・・・でもそれに縋り付いた瞬間から、罪のない貴方にまで負の遺産を背負わせてしまうほど

私の心を・・・躰を・・・きつく縛り上げていく、終わりなき罪悪感の螺旋


幾重にも複雑に絡み合う呪縛の糸を、断ち切る術さえ放棄していた私の心に、貴方の悲痛な声が突き刺さる。


「来てくれ!僕と一緒に」


貴方に着いていきたい気持ちを、血を吐く想いで捻じ伏せながら、ずるずると後ずさりするだけの私。

じりじりとにじり寄る貴方の歩みと・・・逃げ場を失いながらも、貴方の要求を拒もうとする私の間合いがバランスを崩しかけた、その瞬間だった。

「テレサ・・・貴方をたったひとりこのテレザートに残してくらいなら・・・僕は・・・僕はむしろ・・・ここに残りたい!」

予想もしなかった言葉が、透明な部屋に凛と響き渡る。

部屋の隅々にまで鋭く突き刺さった言葉の欠片が次第に丸みを帯びていって・・・
傷ついたままの壁に次々と柔らかい思いを塗り重ねては、見る見るうちに補修していくように思えた。
まるでそれは・・・刺々しいままだった私の心を、その優しい想いで丸ごと包み込んでくれる、
貴方の心そのものに似ていた。


「島さん・・・!」


貴方はここで私と一緒に運命を共にしようとしているのですか?
この罪深き罪人の私をそこまで・・・そこまで心配してくださっているのですか?

・・・何故?

・・・どうして!?

このままだと貴方は生命(いのち)を失ってしまうかもしれないのです!
何より貴方が一番大事に思っているのは、地球の・・・そしてヤマトの事ではないのですか?

いけない・・・!いけない・・・!!
貴方は間違ってます。
貴方が一番大事に思わなければいけないのは、罪人の私ではなくて・・・貴方が心から愛する地球、そしてヤマトの事でなければ駄目なんです。

御願いですから・・・これ以上私の気持ちを揺るがせないでください。
私は自分のことで貴方を苦しめてはいけないのです。
私自身の問題で貴方を悩ませてはいけないのです。

私は・・・私は貴方にそこまで想っていただけるほどの人間ではないのですから・・・

だからもう・・・これ以上私を混乱させないでください!
私は・・・私は貴方を・・・!


「テレサ・・・テレサ・・・一体僕は・・・どうしたらいいんだ!?」


呻く様に投げ出された言葉は貴方の心、そのものを表していた。
躰を覆っていた理屈の壁が、音も無く見事に崩れ去っていく。
貴方と私の間を隔てていた意識の壁は、貴方が放った真摯な言葉の一撃によって軽々と打ち破られていく。
言い訳というオブラートですっぽりと包みこまれていた私が、濁った瞳を通して見ていた貴方の姿は、今までずっとぼやけたままだった。

だけど今、はっきりと私の目に映った貴方の直向な姿を認めた瞬間に思わず動き出した躰は・・・貴方を・・・貴方だけを真っ直ぐに目指していた。

「島さん・・・!」

貴方の胸の力強い鼓動が、私の耳朶を打つ。

言い訳を、理屈を・・・かなぐり捨ててようやく辿り着いたのは・・・
島さん、貴方というたったひとりの男性(ひと)。

罪深い私を丸ごと受け止めてくれた貴方の優しさに・・・今度は私が応える番ですね?
例えそれが・・・私の生きる途(みち)をこの先全て閉ざそうとしても。

・・・抱き締めて、島さん。
今だけは・・・息が出来ぬほど強く私を抱き締めていてください、島さん!

秘めたる決意が揺れぬように・・・
貴方の胸の温もりを忘れぬよう、この胸にしっかりと刻み付けていたいから・・・!

せめて今だけは・・・!

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