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大丈夫なんて嘘

2009年4月22日 新作です

「やだっ!島君ったら、まだ家に帰ってなかったの?駄目じゃないの、ホントに!」

非難めいた言葉が機関銃のようにポンポンと乱射されるのと同時に、フロアに居合わせた人間の容赦ない視線が一斉に俺に降り注ぐ。
男の比率が著しく多いこの職場で、見目麗しい女性が立ち寄るのはまさに奇跡といっていいほどで、周囲の注目はユキ一人に向け一心に注がれる。
容姿端麗・才色兼備、向かうところ敵なしのパーフェクトレディーは、周囲の視線など一切お構いなしに、俺に向け捲くし立てる。

「・・・・・・どうしたんだい、ユキ?ここは君が立ち寄る場所じゃないはずだが?」

平静を装って問い質すも、相手が一枚上なのは昔からのお決まりコースで。

「私がここに来ちゃいけない理由でもあるの?なんなら私がここへ立ち寄った理由を、長官から島君へ直接説明していただいても、よろしくてよ!?」

「・・・・・・降参します。反論した俺が馬鹿でした・・・・・・」

尻すぼみになる俺の声を混ぜ返すかのように、ユキは更に1トーン高い声で俺を責め立てる。

「話をはぐらかされる前に、もう一度ダメ押ししておくわね。こんな時間まで仕事していちゃ駄目じゃない!やっと今日長期勤務から解放されて、月基地から帰還してきたばかりなんでしょ?仕事場に戻るよりも先に、真っ先に帰らなくちゃならない場所があるじゃない!」

分厚いファイルを小脇に抱え、俺をしかと見据えるユキは、微かに柳眉を顰める。
ユキがこういう表情をする時は、大抵何らかの被害(と言ったら大袈裟だろうが、他に適当な表現が見つからないので、この例えは妥当だろう)を被る状況に陥る事を身をもって知っているが故に、平身低頭ひたすらやり過ごす事だけに全神経を集中させる。
 

ユキ相手に無用な問答を繰り広げるのは間違ってるぞ!
ここは一つ、物分りのいい男を演じきって、目の前の危機を回避するしかないっ!
・・・・・・頑張れ、俺!
ユキが機嫌を直すまでの一時の辛抱だっっっ!
 

胸の奥底に閉じ込めたちっぽけなプライドを捩じ伏せ、心とは裏腹な穏やかな笑みを浮かべ、静かにユキに話し掛ける。
(実際は、相当顔が引き攣っているのだろう。俺を見つめる周囲の人間の表情が曇っているのが手に取るように分かる。しかしここで引き下がってはいられない。航海長の名が泣くぞ!)
 

「ユキ、御忠告有難く承っておくよ。今日中に提出しなければならない書類があるけど、あと一息でそれも完了する。そうしたらすぐ家に帰るさ」
 

満面の笑みを湛えて自信満々に言い切ったつもりだったが、逆に俺の言葉を聴き終えた後からどんどんと険しくなっていくユキの表情が鬼気迫るものとなっていく。
著しい変化で凄みをましていくユキとは正反対に、見る見るうちに顔から血の気を失っていくのが分かる。


「・・・・・・念のため訊いておくけれど、島君が仕事で帰宅が遅くなること、テレサさんにはちゃんと言ってあるんでしょうね?」


ドスの効いた低音が耳に流れ込む。
はっきり言ってユキのこの口調は怖い。怖いなんてもんじゃない!
ヤマト乗組員の荒くれ男達を、外見とは裏腹な姉御肌で見事に統率(と言うより、完膚なきまでに仕切り倒すって言葉の方が、妙にしっくりくるのは何故なんだろう?いや、俺も他の乗組員達もユキの仕事ぶりを間近で
見ていたからこそ、半ば憧憬に近い心情で彼女のことを評価しているんだが)してきた経緯が、更にその想いを深くさせる。


「・・・一応、連絡入れておいたけど・・・『大丈夫です。どうぞ私の事は心配なさらないでお仕事に集中なさって下さい』って、テレサは言ってくれたから・・・」


ユキの目前でしどろもどろになりながら、テレサが電話口で伝えてきてくれた言葉を口に載せた瞬間、
ユキが俺の両腕を鷲づかみにしながら、力任せに俺の向きを反転させた。

真一文字に唇を噛み締めながら、有無を言わさず強引に俺の背中をファイルで押し捲るユキの眸は、ほんの僅か泣いているように見受けられた。

「『大丈夫です』なんて、嘘に決まってるじゃない!どうしてそんな事くらい、分からないのっ?島君の馬鹿ッッッ!!!仕事なんか放り出して、とっとと家に帰りなさい!」
「め、・・・・・・滅茶苦茶言うなよ;;;」
「滅茶苦茶言ってるのはどっちよ!?テレサさんが淋しさを押し殺して、どんなに我慢しているか・・・そんな事も分からないで、仕事を優先するなんて愚の骨頂だわっ!目の前にいられるだけで凄く目障りだから、早くお家に帰ってちょうだい」

早口でヒステリックに喚き立てるユキの声に、微かな嗚咽が滲む。
泣き顔を悟られまいと、顔を俯けつつ必死になって、俺の背中をファイルで押し続ける彼女の背中には、古代への尽きぬこと無き愛情が宿っていた。
その瞬間、テレサの淋しげな面影が俺の脳裏を過ぎり、身を切られるほど切ない想いが全身を瞬く間に駆け抜けた。
心の淵を抉り取るような鋭い痛みが、俺の心にざわめきを呼び起こす。


逢えない時間が、どんなに辛いことなのか・・・・・・
テレサが傍に居てくれる幸せに浸り切ってしまって、
彼女の本当の気持ちを忘れてしまう所だったよ・・・・・・

・・・・・・ゴメンよ、ユキ。
君もテレサと同じ立場だったからこそ、敢えて憎まれ役に徹して、
俺をテレサの元に帰らせてくれようとしたんだね。


「・・・・・ありがとう、ユキ。君の言う通りだ。これからすぐ、家に戻る」
「・・・・・ホント?」

半信半疑のまま、上目遣いで俺の表情を盗み見るユキに、茶目っ気たっぷりのウインクを返しながら、ユキの背中を今度は俺が反対側に押し返す。
呆然としたまま顔だけをこちらに向けて、俺に押し出されるようにして二、三歩前に踏み出したユキの背中に安堵の色が広がる。


「男に二言はないさ!ユキ、君も早く古代の元に帰って、古代の為にとっておきのお・い・し・いコーヒーを淹れてあげてくれ。・・・・・・尤も、君が淹れてくれるコーヒーを率先して全部飲み干してくれるのは、後にも先にも古代ただ一人だったっけ?」

「ん、もう!島君ったら!一言余計なんだからッ!」

互いに少しずつ離れていく空間を埋めるようにして、暖かな気持ちが小波のように二人の胸に広がっていく。
それはずっと変わらずに続いていく、旧友(とも)としての想いに他ならず。


・・・・・・いつか、またどこかで・・・・・


声にならない声が一陣の風になって、二人の耳元を掠めていった。

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