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愛という意味〜字書きの為の50音のお題〜

2005年6月29日サイト掲載作品

どういう愛し方をすれば君は幸せになれる?
どういう愛し方なら君は悦んでくれる?

君が幸せになるために・・・僕は一体何をすればいい?

*****

さっきまで煌煌と輝いていた月を隠し始めた薄暗い雲の切れ端。
どんなに強い煌きを放つ月の光さえも、雲の侵攻にはどう足掻いても太刀打ちできない。
抵抗を強めれば強める分だけ勢いを増していく強かな雲の蹂躙は、月の悲鳴さえも寄せ付けない。
覆い尽くそうとする雲から必死に逃れようとする月の光は暗闇をあてもなく彷徨い続け、やがて沈黙の闇に呑みこまれる。

そう、その情景はそのまま・・・俺の君に対する想いにも似ていた・・・

成す術もないまま闇に呑み込まれつつ、最後の悲鳴を分厚い雲によって遮断された月の嘆きが胸の奥に鋭く突き刺さる。

彼女を・・・テレサを愛するが故に己の心の中に付き纏う影が俺の心を苛む。
ジリジリと執拗に責め立てる苦しみは、彼女を愛する一方で本当に俺自身が彼女を幸せにしているのかという疑問符を衝きつけながら俺の心を蝕む。

『お前にテレサを愛する資格はあるのか?』、と。

一度ならず二度までもテレサが命を掛けて俺を救ってくれたという事実の前に、必死に俺を想ってくれた彼女に対して自分自身が全く何にもしてあげられなかったという、容赦ない現実が立ち塞がって身動きが取れなくなる。

言い訳や弁解など一切認められない強大な事実の前で、心は立ち竦むばかり。
いや、言い訳など出来る筈もないし、するつもりなどないと分かっているがゆえに、彼女に対してどうすればいいのか、どう愛したらいいのか混乱していくばかり。

彼女を心の底から愛している気持ちは昔も今も全然変わりない。
だけど『何もしてあげられなかった』という負い目と責任のみを拡大視して自分自身が必要以上に拘っていること、それこそが裏を返せばそれだけ深く彼女を愛していると言う何よりの証拠なのに、その事実に気付かないフリをしている俺がいて。

心の片隅で澱んでいく気持ちを誤魔化し続けながら、彼女と接していた俺にふと投げ掛けられた言葉。

「私、本当はあのまま・・・消えてしまっていた方が良かったのかもしれません・・・」

その言葉を発した彼女の嘆き哀しんでいる眸を見た途端、俺の心を覆い尽くしていた『卑怯者』というメッキがボロボロと剥がれ落ちていった。
知らず知らずのうちに自分に都合がいいように、そして自分の正当性を守りたいが為に『彼女に何もしてあげられなかった』という最大にして最強の理屈が激しく崩落していく。

俺よりも彼女の方がずっと・・・ずっと苦しい思いをしてきたはずなのに。
俺なんかよりもずっと・・・ずっと哀しい想いをし続けてきたはずなのに。
決して消え去ることのない罪の意識を抱え込み続けながら・・・ずっとひとりぼっちで誰に訴えることもなく、哀しみを耐え忍んできた君なのに。

それなのに僕は君をもっと哀しませていたのか・・・?

堪えきれない想いが爆発した瞬間、腕の中に抱え込んだ大切な・・・何よりも大切な、この世でたったひとつの生命(いのち)。
心想うままに抱き締めながら、その大切な存在を確かめた瞬間に闇夜に零れ落ちていく言葉の欠片たち。

「御願いだから・・・消えてしまった方が良かったなんて言わないでほしい。君が・・・君という存在が僕の生きる希望を支え続けてくれている、何よりのものだから。君が君自身を否定することは、僕が君を想う気持ちさえも君から拒絶されそうで辛い」
「島さん・・・。だけど私は・・・!」
「心の中でずっと蟠っていたことがあるんだ。・・・テレサ、君に対して僕は『何もしてあげられなかった』っていう僕自身の一方的な思い込みを、君とそして僕自身に勝手に押し付けていただけなんだって」
「・・・」
「『愛』っていうのは、相手の気持ちを推し量りながら自分の気持ちを受け容れてもらうんじゃなくって、喧嘩しながらも言い合いながらも『一緒にいられること』、ただそれだけでふたりがいつも幸せな想いを分かち合えることなんだって気が付いたんだ。自分が相手に対してああしたい、こうしたいじゃなくって・・・その存在をいつも感じられることでお互いが無条件に幸せになれることが一番だって気が付いたんだ」
「・・・島さん・・・!」

頑なな心の壁から剥がれ落ちたメッキの残骸が心の中に堆く積まれていたはずなのに、手から滑り落ちていく砂を思わせるように次第に跡形も無く消し飛んでいく。
しなやかで透明な弾力性のある膜が次々に胸の内に生み出されながら、剥がれ落ちたメッキの代わりに心の内側を覆いつくしていく。
何度綻びかけても決して崩れないような想いを携えながら、透明な膜は幾重にも心の内側を覆いつくしていく。
テレサに対する自身の尽きぬ事のない愛情を表しているかのように。

胸の中に閉じ込めた躰に一際強い想いを届けながら抱き締める腕にそっと力を込める。

「今、こうして君が確かに存在していることを実感できるだけで幸せな気持ちが込み上げてくるんだ。きっとそれが今までもこれからもずっと変わらない君への気持ちそのものだと想うから。今まで僕の一方的な気持ちで君を苦しめてきてしまって本当にゴメン。だけど・・・だけどこれからは・・・!」

雲間に隠れていた月から漏れ出す光が漆黒の闇に包まれていた世界を徐々に照らし出していく。
今はまだ儚く淡い光だけれども、少しずつ強さを増していく光の中で歩き出し始める二人に・・・月は静かに微笑み掛けるのだった。

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