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追いつけない背中〜字書きの為の50音のお題〜

2004年10月8日サイト初掲載作品

「・・・で、用件は何だ?!女の口説き方をレクチャーして欲しいのか?それとも嫌な上司の丸め込み方か?進のフォローに限界を感じて愚痴りに来たか?」
「・・・どれも、はずれです・・・」

人の気を逸らさせない話術は相変わらず大したものだと思うけど、さすがに今日の俺は古代さんのペースに付き合うのがしんどかった。
裏を返せばそれだけ行き詰っていたという訳で。

「挨拶代わりの冗談だ。進にも真田にも相談できない類のプライベートな悩みを打ち明けに来たんだろ?」
「・・・お分かりですか?」
「大体察しはつく。週末金曜日の定時退社日、それも終業時刻を5分程度過ぎた頃を見計らったように訪ねて来る用意周到さ、そして明日から月面基地に出向く俺の予定を知っていたのであれば、今この瞬間しか
スケジュールが開いてないと分かる。タイミングを逸したら俺に逢う機会は向こう半年ないからな」
「・・・お手上げです、参謀」
「お手上げするのはまだ早いよ、島君」
「えっ・・・?」
「・・・今、悩んでいるのは彼女との関係の事だろう?彼女と一緒に暮らし始めたはいいが、自分が彼女の傍にこのままいてもいいものかどうか迷ってる・・・いやそれより以前に自分はそもそも彼女の傍にいるべき資格がある人間なのだろうか・・・強ちそんな悩みを漏らしに来たんだろう?俺の推察は間違っているか?!」

流れるように口をついて出る言葉の波は俺の心にザワザワとした余波を起こしつつ時の彼方に沈んだ。

「・・・そこまでお分かりだったんですか・・・」
「伊達に参謀職をこなしちゃいないということが君の前で実証できて俺は嬉しいが・・・どうやら君はそれどころじゃないらしいな」

向かい合って立っている俺と古代さんの間をある種微妙な雰囲気が横切る。
たぶんそれは・・・古代さんと俺とが経てきた道程がほぼ似ている・・・というか、
愛する女性(ひと)の境遇、そして人となりも同様に似ているという、一種似た者同士が共有する意識の併合とでも言おうか。
・・・ただ決定的に違うのは俺と古代さんの愛し方と、愛する女性に対するスタンスの差かもしれなかった。


「時間がないから結論だけ述べる。悩むだけ無駄だ」


ズバッと核心を突いたような一言が胸の奥深くに突き刺さる。
遠慮や回りくどい言い方など一切せずに相手の懐に真っ直ぐ切り込んでくるのは、相当の自信がないと出来ないことだと俺は知っていた。
古代も真田さんも言い難い事を言い放つ時があるが、そんな場合でも多少の躊躇いと遠慮があるのは端から見ていても気付くことだった。
・・・しかし古代さんはそんなものを一切寄せ付けず、直球ど真ん中をぶち込んで来る。
下手したら返り討に遭うかもしれないし、場合によっては相手がそのままノックアウト状態に陥ると分かっていても容赦はしない。

確か一度だけそんな場面に遭遇した事がある。
一触即発状態の古代さんと真田さんが睨みあっていたのだが、古代さんは件の台詞の言った後に真田さんにこう続けたのだった。

「・・・真田。俺がこう言う時はお前が何とかしてくれるからと見込んでいるからこそ言えるんだ。何の期待もしていない相手にそんな台詞を吐くものか」

ややあって黙り込んでいた真田さんが古代さんに向かって零した一言が忘れられない。

「お前に付き合う俺も馬鹿だが・・・俺を信頼しているお前はもっと馬鹿だよ。・・・期待を裏切るかもしれないとは思わんのか?」

苦笑いを浮かべながら話す真田さんに古代さんはあっさりと言い返すのだった。

「俺は自分を信じてるし、それ以上に自分が信じた友人が期待を裏切るなどと微塵も思ってない」


・・・あの時と同じ場面が再現されている錯覚に陥る。
狼狽した目付きで古代さんの視線を捉えようとすると、古代さんは背広の懐から煙草を探り出しライターで火をつけ慣れた手付きで口の端に咥え込んだ。

「失礼。煙草が吸いたくなったものでね。君の許可なく吸わせてもらってるよ」

言葉と共に吐き出される紫煙がゆらゆらと宙を彷徨う。うろたえている俺を尻目に古代さんは悠々と煙草の煙をふかし続ける。

「・・・『愛している』。どんな理屈もこの気持ちの前では全て屈してしまうとは思わないか?」

言いながら俺を見据える古代さんの視線が俺の眸を射抜く。それはまさに多くの辛く苦しい体験を経てきた者のみが言うことを許された唯一の台詞であると古代さんの表情が物語る。

「俺はスターシアを愛している。俺のこれまでの人生の中で唯一胸を張って堂々と言い切れる気持は今もこれから先もずっとこの気持しか有り得ない」

素面で聞くと顔から火が出るほど恥ずかしい台詞のはずなのだが古代さんが言うと重みが違うし、それだけの台詞をずばっと言い切れる古代さんの男として、そして人間としての懐の深さに言葉が出ない。

「・・・怖くはないですか?自分が傍にいることで彼女に迷惑が掛かっているかもしれないとか・・・」

恐る恐る切り出した言葉に古代さんは間髪入れず答える。

「そう思ったら最初っから彼女に惚れてはいない。彼女に相応しい男であり続けたい、彼女の真摯な気持に応えられ続ける男でありたい・・・そう願うのは彼女を愛しているからこそだと俺は思っているが。いい加減自分の中の不安な気持を彼女に摩り替えて誤魔化すのは止せ」
「・・・!」

その言葉を聞きながら身体の内側から痛みの塊が吹き出てくるのが分かって全身が悪寒に包まれる。
いや、それ以上に敢えて目を瞑っていた自分の中のズルい部分をことごとく指摘されたという事実に心が凍りついたままで。

「島・・・。『彼女を愛している』・・・それ以上の想いなど他にはないはずだ。言い換えればその気持こそが俺達を生かし、支え続けてくれる気持に他ならないはずだろ?!」

吐き出した煙の中に込められている想いが部屋の中に染み込んでは時の歩みを遅くさせる。

「俺が言いたいのはそれだけだ。・・・じゃ、明日の準備があるので先に失礼する。部屋の電気を消していくのを忘れるな」

呆然と立ち尽くしている俺の肩にポンと手を置いた古代参謀の表情が一瞬だけ柔和な色を滲ませていたような気がした。
・・・そう、それはもし俺に兄と呼べる人がいたのなら、手の焼ける弟の面倒を文句を言いつつもきっちりと看てくれるような・・・まさしくそんな感じだった。
古代さんの大きい背中が俺に対して「島・・・しっかりしろよ!」と無言のまま励ましてくれるような気がしてならない。

追いつけない背中は確かに存在する。
・・・だけどその背中を保ち続けようとする影で数々の壮絶な痛みや哀しみ、そして苦労が隠されていることを俺は、今日初めて古代さんの背中を見て思い知った。

古代さん・・・貴方の足元には到底追いつけないかもしれません。
・・・だけど俺は・・・俺は自分なりの精一杯の想いで彼女をずっと愛し続けたい、そう決めました。
貴方の励ましにいつの日か応えられる男になれるように・・・。
そして何よりも俺の事をいつも思い続けてくれている彼女の・・・テレサの想いに恥じない男でいたいから!

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