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プロポーズ

2003年10月24日 サイト初掲載作品

空を真っ赤に染め上げる落日の輝き。
茜色がだんだんと紫色に侵食されながら空を覆う薄い雲は、両手をいっぱいに広げながら夕闇を手招きで迎え入れようとしている。
金色に光り輝く波を見つめながら、緩やかに過ぎようとしている時間の中で、晩秋の浜辺に静かに佇む二人。
何かを祈るかのように胸の前で両手を組みながら静かに立ち尽くす彼女を、そっと気遣うように声をかける島。

「・・・何を祈っていたんだい?」

島の問いかけにふっと軽く視線を落とすと、テレサは落ち着いた声で話し始めた。

「この素晴らしい景色が・・・いつまでもずっとそのままでいてほしいと・・・願っていました」
「テレサ・・・」

テレサの言葉の裏側にある、彼女の苦悩を思い遣って島は次に続く言葉を掛けられずにいた。
テレザートを自らの力で破滅へと追いやってしまった過去は、未だに彼女の心に暗い影を落としていた。
彼女が今までどんな想いで生き続けてきたのかを考えると、むやみに励ましの言葉を掛けるのは、却って彼女の繊細な心を傷つけるだけだと分かっていたから。
彼女の心から自責の念を全て取り除くことは不可能に違いなかった。
自らの力で引き起こしてしまったテレザートの悲劇を、彼女は死ぬまで背負い続ける覚悟で、今日という日を生きているに違いなかった。
壮絶な苦しみと癒されることのない悲しみから逃げることなく、ひたむきに生きようとしている彼女の・・・テレサの気持ちを・・・解いてあげたくて。
彼女の張り詰めた心を少しでも解きほぐしてあげたいと願ったあのときから・・・
島のテレサへの想いは急速に深まっていった。

「・・・島さんも何かを祈ってらっしゃったんですか?」

僅かに顔を上げて自分を見上げるテレサの瞳に、今その瞬間だけは翳りが影を潜めているのに気がついて島の心に微かな緊張が走る。
彼女に対する溢れんばかりの想いを携えた言葉は限りない優しさに包まれながら迸っていった。

「・・・ずっとこのまま・・・君といつまでも一緒にいられたらって・・・祈ってた」

黙って聞いていたテレサの瞳に動揺が走る。
見開いた瞳の中で自分の姿が徐々に霞んでいるのに島は気づいていた。
薄い靄が掛かってみるみるうちに溜まっていく透明な雫の底で、自分の姿だけは揺るがずにいると知って、島の心を覆っていくテレサへの尽きぬことのない想い。
俯いて小刻みに身体を震わせているテレサに向き直って島は優しい声で続けた。

「・・・僕の願いを・・・君は叶えてくれる?」

ハッとした表情で島を見上げたテレサの頬に紅が散る。
何かを言いかけようとして僅かに開いた唇が一旦閉じると、次の瞬間に透き通った声が漏れた。

「島さん・・・。私はテレザート星を死に追いやった人間です。私にはその言葉を受け取る資格がありません」

強い拒絶の言葉でありながらも、テレサの身体から滲み出る雰囲気から彼女自身も葛藤していることを感じ取った島は、優しい口調でさらに続けた。

「テレサ、君は自分の過去に対して負い目を背負い続けていると僕は十分承知している。君が消せない痛みをずっと持ち続けていることも分かっている」
「それを分かっていらっしゃるのなら、私が貴方と一緒にいられない理由を島さんはご存知のはずです!お願いですから私の気持ちを揺るがすようなことは仰らないでください!」

沈痛な面持ちで訴えるテレサの心が本当は切ないほどに自分を求めていると分かって、島の心はかつてないほどの激情に埋め尽くされた。
普段は鉄壁の理性の壁で囲われている真実の心が、今この瞬間だけはその壁を突き破っていくのを止めることは出来なかった。

「テレサ、僕は君の深い悲しみを全部拭い去ることは出来ないと分かってる。だけど・・・だけど一緒にいることでほんの少しでも君のその苦しみを緩めることが出来るのであれば・・・僕はもう何一つ望まない」
「島さん・・・!」

二人の間を海から訪れる湿り気を帯びた風が通り過ぎる。
それは二人の心にも潤みを含んだ優しい足跡をひっそりと残していった。
愛し合っているのに、島のことをを思い遣りすぎてもう一歩踏み込めないもどかしさが今もまた
テレサの心を覆い尽くし始める。


好きなのに・・・
好きだけど・・・


行きつ戻りつしながら彷徨っていた心が羽ばたく場所を求めて身体から抜け出しそうになるのを感じて震えだすテレサの心。
真剣な眼差しで自分を一心に見詰める島の視線から逃れるようにテレサはそっと俯いた。


分かっているの・・・
私、分かっているんです・・・もう貴方なしでは生きていけないってことを・・・
私・・・分かっているんです・・・
・・・でも私が傍にいたらきっと島さんに迷惑を掛けてしまう・・・
島さんを不幸にさせてしまうから・・・
だから・・・


自分が心の底から願っている想いを捻じ伏せようとして、敢えて正反対の理由をつけて島と一緒になりたいと願う気持ちを誤魔化し続けるには最早限界が来ていた。
そんなテレサの心を見透かしたように島の口から零れた言葉が届く。

「テレサ・・・。今のままの君が・・・僕には必要なんだ。誰よりも人の心の痛みを分かることの出来る優しい君だから・・・僕は・・・」

言い掛けた言葉が途中で止まったかと思うと、島は胸の中にテレサを優しく抱き寄せ柔らかく包み込むようにして抱き締めた。

あの時と同じ、温かい島の胸に抱き締められながらテレサは涙を零し続けた。

ずっと・・・ずっと求め続けていた、自分が本当の自分でいられる場所にようやく辿り着けた喜びがテレサの身体を突き抜ける。
幸せになる資格がないのだと自分で自分の心を戒めてきた鎖を、その優しく誠実な想いで解き放ってくれた
島の・・・島の愛に応えたいと願うテレサの心に・・・もう迷いはなかった。

「・・・いいんですか?・・・私で本当にいいんですか・・・?」

自分の身を一心に案じてくれるテレサの健気な想いに胸を打たれつつ、島は一際強くテレサを抱き締めると万感の想いを込めて答えた。

「テレサ・・・、君じゃなくちゃ駄目なんだよ」

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