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Say Yes

2004年2月21日 サイト初掲載作品

「・・・やっぱり・・・駄目、か・・・」

口から遠ざけた缶コーヒーを、手の中で玩びながら天を仰ぎ呟いた言葉は、蒼く・・・どこまでも澄んだ虚空の果てに吸い込まれていく。

「・・・すみません・・・」

俯いて伏目がちに答えるテレサの言葉は、消え入るほどに細く、震えていた。

「君が謝ることはないんだよ、テレサ。・・・僕は君に対して自分勝手な気持を押し付けているだけなんだから。それに初めての申し込みで、すぐに了承の返事を得られるほど簡単に決断出来る事柄ではないよね?これからの自分の人生を決めてしまうかもしれない選択を、しなければならない訳だから」

笑いながら話しかける島の、自分に対する優しい配慮を思い遣ってテレサの心は引き千切れるほどに痛む。
この痛みの本質は島に対する申し訳ない気持なのか、
それとも了承したい気持を捻じ伏せて、島のプロポーズを断った自分への軽蔑なのか・・・
混乱する心の中で様々な想いが入り乱れては自分自身を責め立てるテレサ。

「今回は僕のプロポーズを受け容れられなかったかもしれないけれど・・・」

そこで一旦言葉を区切った島は隣に座っているテレサの方を向きなおすと、ゆっくりと落ち着いた口調で次の言葉を続けた。

「君が僕を嫌ってプロポーズを断った訳じゃないって事だけは・・・君の態度を見ていて分かるから」

「!」

島の言葉の裏側にある意味を悟って、テレサの眸が揺れる。


判っている・・・!
島さんは私の気持を判っていらっしゃる・・・
こんなにも島さんのことを愛している私が・・・島さんなしではもう生きることさえ出来ないはずの私が、島さんからのプロポーズを受け容れられない理由を・・・
島さんは・・・判っていらっしゃる・・・


胸の手前で組んだ指先に思わず力が入って、重ね合わせた指の付け根が僅かに窪む。
島の傍でいつまでも一緒にいたいと願う自分と、島と一緒になることは彼に迷惑と苦痛を一生
背負わせてしまうかもしれない不安に襲われている自分が心の中で激しく入れ替わる。
互いを侵食し始めた願望と不安が次々に崩れ去って行く中で、唯一持ち堪え続けたその想いは・・・
島に迷惑をかけてはいけないと願う気持のみだった。

それは当の昔に分かっていたことだった。
島を愛するが故に、一緒になることで自分が及ぼしかねない迷惑と苦痛を将来にわたって一切与えてはいけないのだと。
愛すればこそ・・・辿り着いた結論に異論の余地はないはずだと。
・・・自分の本心を必死に説き伏せて、無理に装わなければならない現実に苛まれながら・・・

・・・そのときだった。
胸元できつく組まれていた指先が、そーっと降りてきた島の手によって徐々に解かれていく。
頑なな自分の気持を表しているかのように解く術さえ放棄して、固く組まれていたはずの指先は、まるで魔法に掛かったかのように少しずつ緩みながら島の掌の中に包み込まれていた。
今、島が自分に対して行っているの一連の動作は、あのテレザリアムでの刹那の抱擁を瞬時に思い起こさせるように慈しみと優しさに満ちていた。

・・・あの時もそうだった。
テレザートから離れるのを頑なに拒否し続ける自分を、その背景も消せない過去も全て丸ごと受け止めてくれた、島の穢れなき想いに救われた自分自身のことを。


島はテレサの右手に自分の左手を上から重ね合わせると、迷わず自分の方へと引き寄せた。

「テレサ・・・君に忘れないで欲しいことがあるんだ」

テレサの右手の先をそっと自分の手で誘導しながら瞼にそっと這わせた。

「今、君の目の前にあるこの眸も・・・この唇も・・・この頬も・・・」

言いながら次々と自分の身体の部分を触らせ続ける島。
テレサの顔に戸惑いの表情が宿る。

「・・・そしてこの胸の鼓動も・・・」

テレサの華奢な指先を自分の左胸に押し当てると、その上から己の手で包みこむように重ね合わせた。
服の上からを通してでもはっきりと分かる胸の鼓動は、今この瞬間も規則正しく動き続けている。
強く・・・強くその手に生命の躍動の証を刻み込みながら。

「君が大切な命を僕に分け与えてくれたから・・・。だから君の目の前で今もこうして生きている僕の存在を、いつまでも忘れないでいて欲しいんだ」

「・・・島さん・・・!」

テレサの顔が僅かに歪む。
何か言い出せば泪が溢れだしそうになる自分を、テレサは分かっていた。

「そして・・・」

テレサの指先を彼女の元にそっと戻した島は、小刻みに震えているテレサの両肩に手を置いた。

「君のこの髪も・・・眸も・・・唇も・・・頬も・・・そして今、目の前にいる君の存在全てを何よりも大切に感じている僕が、ここにいるってことも・・・」

一際強い光が島の眸に宿る。
島の言葉そのものに込められている自分への深い愛情に嘘はないはずだった。
島の優しい心に・・・強く気高い愛情に支えられてここまで生きることが出来たことを一時も忘れるはずなどなかった。

それなのに今の自分は・・・島の求愛から逃げ出そうとしている自分は・・・。

「・・・今日は君と逢えただけで嬉しかった。ありがとうテレサ!だいぶ風が強くなってきたみたいだからそろそろ帰ろうか」

笑顔を滲ませながら軽くポンと肩を叩いてすくっと立った島は自分に対して背中を向け、歩き出そうとした。


待って・・・待って・・・!待って・・・!!


声にならない叫びが身体から放たれたと同時に島の背中に縋り付いた自分がいた。
意識よりも先に反応した身体を満たし始める透明な想い。
啜り泣きながら島の服をギュッと掴む指先が泪の色に濡れる。

「行か・・・ないで。・・・行かないで・・・ください・・・」

嗚咽と共に吐き出した言葉が風に散る。
ポロポロと零れ落ちていく泪に映る真実の心。


もう・・・自分の心にこれ以上嘘はつけないから・・・


縋り付いていた島の背中がゆっくりと動いて、向き直った気配を感じた。
再び両肩に置かれた島の手に少しずつ力が込められていく。

「・・・テレサ。もう一度、もう一度だけ君の答えを聞かせて欲しい。・・・僕と・・・僕と一緒に生きてくれますか?」

意を決して微かに頷いたと同時に柔らかく大きな腕の中に包み込まれた。

「・・・島さん・・・私・・・私・・・!」

激しい想いに突き動かされて何かを言いかけたテレサを島さんの声がそっと制した。

「何も・・・もう何も言わなくていいんだよ、テレサ。君も僕も色々と回り道をしたけれど・・・いつかはこんな日が訪れるはずだと僕は信じていた。君と出会ってからずっと・・・」

感極まって一際強く腕の中の想い人を抱き締めた島は、嬉しさで泣き崩れている彼女の耳元にそっと最後の囁きを洩らした。

「二人で幸せを探しに行こう・・・。ずっと・・・二人で・・・」

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