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光の春

寒い日が続いております。

またちょっと意味不明のSSをUPしました(汗)
大寒も過ぎ、暦的には少しずつ春めく季節となりますよね。
まだ当分厳しい寒さが続きますが、ほんの少しでも皆さんの心が温まってくれるような、そんな想いを込めてみました。

よろしかったらどうぞ。

★ボタンのクリック、いつもありがとうございます!★

「もしよかったら外に出てみましょうか?少し寒いけれど、光が心地いいわよ?」

殺風景な病室がパッと明るく華やぐ様な、雪さんの笑顔が零れる。
それはまるで鮮やかな太陽の煌きに似ながらも、優しい想いが溶け出しているような感じで私の瞳に映る。
ヤマト乗組員として、数々の激烈な戦いを経験してきたとは微塵も感じさせない、その溌剌とした笑顔。
しかしその笑顔の奥で、どんなにか辛く苦しい思いを乗り越えてきたのかと想いを馳せたとき、私は雪さんに対して、ある種の共感にも似た想いを感じずにはいられなかった。
私ごときが雪さんに共感を感じているのは、雪さんの立場から見たら、とても失礼なことなのかもしれない。
でも私の事を哀れむのでもなく、同情するのでもなく、対等な一人の女として雪さんが接してきてくれた事が嬉しかった。
・・・・・・とても嬉しかった。

話をしている最中、時折黙り込むようにして口を閉ざしがちになる私に対して、雪さんはさり気なく、大らかに私の心を汲み取ってくれた。
我侭としか言い様がない、私の振る舞いにたいして。

『貴女はきっと自分の想いをまとめて言葉にするまでの時間を、とても大切にしているのね。大丈夫。ゆっくりと考えていていいのよ。話をすることって、言い換えると大切な心のやり取りと同じことよね!貴女にとって誰かと話をすることは、自分の大切な心を相手に受止めてもらえることと同じだと・・・・・・私にはそう思えるの』

病室の中で塞ぎ込みがちだった私に対して、雪さんが掛けてくれた言葉の欠片。
その言葉を受止めた瞬間、何故かテレザリアムで懸命に訴え掛ける島さんのひたむきな瞳が蘇って、私の心を瞬く間に濡らした。
雪さんの言葉と島さんの真摯な眸が重なり合いながら、頑なな私の心にそっと寄り添う。
じんわりと染み透っていくような、その温かさは、凍ったままの心をゆっくりと静かに融かしていくようで。

――その日以来、私は閉ざしがちだった心を少しずつ解き放ちはじめたのだった。


「・・・・・・お願いしてもいいですか?」

ゆっくりと首を廻らして問い掛けると、雪さんは大きく頷いて私に微笑み掛けてくれるのだった。


*****


「ね?たまには外に出てみるのもいいでしょ?」

電動車いすのスイッチを切って、手動で動く様に設定した雪さんは、私の負担にならないペースで車椅子を押してくれる。
途中ところどころで立ち止まっては、通路に咲く花や木々の説明をしてくれたり、飲み物を手渡してくれたりと、ささやかな心遣いで私をもてなしてくれる雪さん。
その優しさについつい甘えそうになってしまう私だけど、心のどこかで、どうしても素直になれなくて申し訳なさが募る。
そんな私を分かっているかのように屈託のない笑顔を向けながら、雪さんは穏かに話し掛ける。

「あっ、ごめんなさい!ちょっと緊急の用件が入ったみたいなの。申し訳ないけれどちょっとここで待っててもらえるかしら?用事はすぐに終わるはずだから、またすぐ戻ってくるわ」

すまなそうな顔で私に伺いを立てる雪さんを見て、思わず滑らかに紡ぎ出された言葉達。
それは意識を経由しないまま、素の私の心情がそのままダイレクトに漏れ出た言葉だった。

「どうぞ、私には御構いなく。雪さんのお仕事を第一優先になさってください。私は大丈夫です!」

いつにも増して強く言い切った口調に、一番驚いているのは他でもない、私自身だった。
雪さんも一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐにいつもの笑顔に戻って私の手を優しく握りながら話す。

「ありがとう、テレサ。じゃ、すぐに戻ってくるから、しばらくここで待っていてね!」

そう言い残して軽やかな足取りで離れていく雪さんの背中に光の束が降り注ぐ。
爽やかな一陣の風が、真冬の空気の中を駆け抜けて行った。


*****

頬を撫でる風の心地よさに、ふと心が弾む気配を見せる。
病室の窓から射す光を浴びているのと、実際に外へ出て柔らかな光の渦に包み込まれているのを感じると、光の感覚の落差が激しいことに気がついた。
窓というフィルターを通してしか感じ取れなかった光は、どこか寂しくて頼り無げだった。
それはそのまま、他人と距離を置きたがる自分自身にも似ているように思えて、何故だかとても居た堪れない気持ちに陥りそうになっていた。
でも今日こうして雪さんに外へと連れ出してもらって、光の恩恵に身を委ねているうちに何となく素直になれそうな自分がいて。
真冬の光は一見弱弱しく感じるけれど、冷たい空気を一閃するのではなく、少しずつ空気中に暖かな想いを伝わらせながら、徐々にその頑なな冷気を懐柔させていくような、しなやかさと健気さを持っているような気がした。
丸みを帯びた金色の波が、そっと私に囁き掛ける。


貴女の心が感じるままに、受け止めて・・・・・・


柔らかな想いを内包した光の小波が、頬をゆるゆると滑り落ちていく。
天上から降り注ぐ光の雫はやがて目に見えない指先を模り、まだこの世界に溶け込めないままでいる私の顔にそっと触れる。
心の奥に潜む、癒し切れない悲しみを僅かでも掬い取ってくれるかのように。
そんな冬の優しい日差しに誘われて、心が溢れ出しそうになるのを止められない私。
じっと空を見上げながら、虚空に思い描くのは・・・・・・あの微笑。
いついかなる時でも忘れることなどできない、あの人の笑顔。
空気中に漂う冷気の微粒子が集まって描き出す面影に、光の華が優しい彩りを添えていく。

時間が経つのも忘れて光と戯れていると、いつの間にか車椅子が動き出しているのに気がついた。
さっき雪さんが押してくれていた感覚と似ているけれど、それにも増して更に円やかさが加わったような車椅子を押す動きに、私の心が微かに反応する。
それは本能が感じ取った、研ぎ澄まされた感覚。
記憶に刻み込まれていた、その感覚を手繰り寄せようとした瞬間、胸の中を駆け巡った想いに心が震えだす。
次第に大きくなっていく鼓動と、何かが起こりそうな予感に堪えきれず、後ろを僅かに振り返った刹那、時間が一瞬にして堰き止められた。


「やっと逢えた・・・・・」


――夢の中で何度も逢いたいと願った、その人が今、私の眼の前にいる。
   逢いたいと心の内では切望してはいても、ずっと勇気がなくて面会を断り続けていた、あの人がここにいる。

――本当は逢いたくて堪らないのに・・・・・・
  でも自分には貴方に会う資格がないと、自らの心を捻じ伏せて逢うのを躊躇っていたあの人が、ここにいる・・・・・・

胸の中で様々な思いが一気に込み上げてきて、うまく言葉が紡げない。
何か言葉を発した瞬間から、想いが溢れ出しそうで怖い。
貴方に逢うのが怖かったこと、でも本当はずっと逢いたくて堪らなかったこと、貴方が生きていてくれて本当に嬉しかったこと、それから・・・・・・

後から後から押し寄せる想いで心が潰れそうになるのを堪えて、やっと口に出来た言葉の雫が淡い光の中で七色に滲む。

「・・・・・・何故?」

立ち止まった時間の中、風もないのに緩やかに靡く金色の髪が柔らかな音色を奏でる。
さらさらと舞う髪に纏わりついた光の泡が弾けるたび、尽きぬことなき愛が貴方へと放たれていく。

「何故でも」

僅かに強い口調で響く声には、『貴方をここにひとり置いて行くくらいなら、僕はむしろ・・・・・ここに残りたい!』と訴えた、あの時と同じ想いが宿っていた。
澄み切った眸に、直向な想いが滲んでいるのが分かって、嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちが綯い交ぜになって私を苦しめる。
貴方は私を見詰めたまま小さく微笑むと、車椅子に掛けていた左手をそっと伸ばして、私の頬に這わせた。
その瞬間、秘めていた想いが一気に溢れ出していく。


・・・・・・そう、その仕草は意識のない島さんに輸血を施しながら、私がしていたことと同じ仕草・・・・・・


何度呼び掛けても目を覚まさない貴方を見詰めながら、ただただ涙を流す事しか出来なかった、あの時の苦しい想いが蘇って胸を濡らす。
でもあの時とは正反対の状況に接し、言葉に出来ない程の感動で心が次第に埋めつくされる。
私の頬を優しく包み込んでいる貴方の手に小さく頬擦りを繰り返し、恐る恐る貴方の手の上に自らの手を重ねた瞬間、堪えていた涙がハラハラと零れ落ちて頬を濡らした。


「驚かせてしまってゴメン。・・・・・・だけど、僕は・・・・・・」


車椅子に座ったままの私の視線に合わせるようにして、腰を屈める貴方の瞳がまっすぐに私の視線を捉える。
これからはずっと傍にいるという想いを込めた視線が私の眸を貫いた瞬間、ずっと胸に燻ったまだだった言葉が解き放たれ、淡い日差しに溶け込んでいく。


「謝らなければならないのは私の方です。本当はずっと・・・・・・」


風を掴むようにして、ふんわりと柔らかく抱きすくめられたまま、貴方の言葉が耳元で優しく響く。
冬の光をその広い胸いっぱいに満たし、温かな想いを携えた心のままで、私を丸ごと包み込んでくれるように。


「僕も君も臆病過ぎた。心はずっと繋がっている筈なのに、何故かいつも一歩が踏み出せなくて」


思えば分かりきっていたことだった。
私も貴方も自分の事よりも先ず、相手の事を尊重して、自分の気持を抑えこんでしまう二人だったと。
自分の気持に素直になれないまま時間だけが淡々と過ぎていくのを、ただ見詰めるだけしかできなかった日々が少しずつ霞んでいく。
瞼を閉じて、貴方の言葉に耳を傾ける私の顔に絶え間なく降り注ぐ光のカーテン。
今、その優しい光のカーテンを開けた先に待ち受けていた、貴方の胸に抱かれながら幸せの意味にようやく気付いた私だった。


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