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告白

2005年9月27日サイト初掲載作品

「・・・本当はもっとちゃんとした形式に則って、しなくちゃいけないことなんだろうけど・・・」

心なしか声が震えているように聴こえるのは、貴方だけではなくてきっと私も緊張している所為。
さっき初めて貴方と手を繋いだ瞬間が不意に蘇ってきて、胸が急に締め付けられるような感覚が
躰を通り過ぎる。
動揺を隠せないまま貴方に手を引かれて、俯きながら歩く私の頬を掠めていく涼風。
通り過ぎる風に逆らうように後退していく気持ちは・・・
私自身も知らない内にもうすぐ終焉を迎えようとしていた。

前置きを述べた後、そのままずっと黙り込んだままだった貴方の声が澱んでいた空気を裂く。
まるで自分自身に言い聞かせるかのような、上擦った声の宣誓は夕暮れの空に溶けた。

「・・・僕が君と今日初めて手を繋いだのは・・・これから先の未来に向けての君に対する僕の気持ちの表れなんだ。
君と手を繋いで歩きたかったっていうのは決して嘘じゃないけど・・・それ以上に僕の君に対する
気持ちを込めて、今こうして君と手を繋いでる」

ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・

まるで貴方の心臓の鼓動が指先に乗り移ったかのように、繋いだ手を通じて感じる脈動は
力強い響きを携えて私に向け放たれていく。
私の指先を潜り抜け・・・私の心に直に訴えかけるように。
貴方の鼓動に共鳴するかの如く、身体の奥から溢れ出す想いに次第に埋め尽くされていく私。
そんな私に気付かぬように貴方は言葉を続ける。
胸の奥から絞り出すような直向な声は私の意識を根底から揺さぶり続ける。

「・・・僕の一方的な気持ちを押し付けてるだけって分かってる。勝手な言い草かもしれないけれど
、僕は君自身の素直な気持ちで選んで欲しいんだ。この手を繋いだままでいいのか、それとも
今此処で離してしまうのか・・・を。」

大きな言葉の波が私の心の淵を深く抉り取る。
抉り取られて痛烈な痛みを感じるはずの心が、何故かこんなにも穏やかで落ち着いている理由はただ一つ。
欠けてしまったモノを埋めてくれる存在があることを、私はぼんやりと気付いているから。


島さん、貴方は覚悟を決めていらっしゃるのですね?
俯いたままの姿勢で咄嗟に垣間見た貴方の表情で、貴方の決意が私には分かるような気がしました。
私から拒絶の答えを突きつけられても、その答えを真摯に受け止めようとしているような貴方の
気持ちが伝わってくるから。

繋いでいる手を通じて・・・貴方の気持ちが私に届くから。

貴方はもしかしたら御自分が傷つくかもしれない展開を予想しながらも・・・私に逃げ道を作って
下さったのですね。私の心が傷付かぬように。
私の気持ちを第一に優先して、どんな事態が起こってもそれをしっかりと受け容れようとしている
貴方の姿勢は出逢った頃と少しも変わらないまま・・・貴方はずっと私を見守ってくれていたのですね。
そしてたぶんこれからもずっとその想いは変わらぬままで。

島さん。私は貴方の優しさに応えられるような女でしょうか?
私の存在は貴方を苦しめ、悩ませる元凶だけなのではないですか?
昔も・・・今も・・・そしてこの先も・・・。

・・・それでも貴方はこの手を繋いだままでいたいと仰るのですか?
貴方の将来を傷付けかねない私と・・・共に歩んでいきたいと願っていらっしゃるのですか?
貴方の未来に暗い影響を及ぼしかねない私の存在を丸ごと受け容れる覚悟でいらっしゃるのですか?


夕闇の端をなぞる様にして一筋の流れ星が瞬きながら駆け抜けた。
一瞬の煌きの中に、人は己の願いを託し真摯な祈りを捧げる。
その祈りの中に込められているのは純粋で穢れない想いの結晶。
たとえ叶わぬ夢だと分かっていても願わずにはいられない、その想いの根底を支え続けるものは・・・

『ささやかな幸せを感じ続けていたい』

というただ一つの想いに、全てが凝縮されていると気付いた瞬間・・・私の手は無意識に動いた。


繋いだままだった手がひんやりとした空気に晒されるのが分かる。
繋いでいた手を離した瞬間に貴方の躰に一気に緊張が走り、顔面から見る見るうちに血の気が引いていく。
生存意識を喪失したような眸が私の眸を捉えつつ宙を彷徨う。
・・・しかしその表情は一瞬にして劇的な変化を遂げていった。
地の底に叩き落されたような意識が瞬く間に天上まで駆け上がっていきそうな鮮烈さで鮮やかに
駆け抜けていく様を私は貴方の表情を通じて感じ取った。

一旦は離れてしまった手が・・・再び私の両手で包み込まれている状況に、彼は言葉も無くただ
黙って立ち尽くすだけ。
だけどその眸の奥に閉じ込めた想いは今すぐにでも溢れ出しそうな気配を湛えていた。

「片方だけの手を繋いだままで歩いていけるほど、今の私には余裕や自信は全くありません。
他人の目からみれば、不器用で格好悪い歩き方だとは充分承知しています。
この先島さんにご迷惑や恥を掻かせてしまうことばかりかもしれません。
・・・こんな歩き方でもいいですか?・・・こんな足手纏いな私でもいいですか?」

言いながら眸から泪が零れ落ちていくのが分かった。
涙で視界がぼやけて貴方の姿が周囲の風景の中にジワジワと滲んでいく。
だけど貴方が私の手を両手でしっかりと力強く握り締める感覚だけは強く躰に響いてきて。

「不器用だって構わない。格好悪いのだって承知の上だ。他人からどう想われようと僕らは僕らの
生き方を堂々と貫けばいい。だって幸せのカタチは他人の価値観で左右されるものではなくて
自分たちで決めるものだから。僕らは僕らなりの精一杯の生き方で・・・ゆっくりと幸せを見つければいい。
そう強く思えるようになったのは・・・テレサ、君と出逢えたからなんだ」

貴方の言葉に寄り添うように天から降り続く星の雨。
瞬いては紡ぎだされる永遠の夢の続きは・・・今、この瞬間から貴方と私の心に引き継がれていく。

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