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待ち侘びて、今

先週の今頃は丁度各地で大雪が降っていました。
日に日に光も強くなってきて、小鳥の囀りにもいくらか明るさが滲んでいる様な気がします。

島さん&テレサの超短編をUPしました。

よろしかったらどうぞ。

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差し出した掌の中で、地上へと舞い降りた光の天使が軽やかな舞を躍る。
金色の光の微粒子を身にまとい、嬉しそうに飛び跳ねる天使達の柔らかな笑い声が漏れ続ける。

頑なな冬の冷気をそっと宥めるようなその光景を、まるで一緒に楽しんでいるかのような君の顔に柔らかな色が滲む。

「もうすぐ春なんですね」

しっとりと響く声に同調するような風が頬を擽る。
黙っていれば、そのままこの景色に溶けこんでしまいそうな君を見ていると・・・・・・何だか遠くに行ってしまいそうで不安になる。

「今年の冬は一段と寒かったから、もしかして身体に堪えたんじゃないのかい?」

僅かに表情を窺う様にして言葉を放った先で、君は微かに首を横に振ると鮮やかに微笑み返す。
冷気に紛れ込んだ光の波は、君の身体全体を慈しむようにして己の懐に包み込む。
大切な者を己の内に掻き抱くような、その光の振る舞いにいつしか同調していく気持。
それはまるで気持がそのまま乗り移ったかのような仕草そのままで、僕の瞳に映る。

いつだってそうしたかった。
・・・・・・いつも、いつでも。
君が怖がらぬように。


「冬がとても厳しかったから、春の訪れがこんなにも待ち遠しいんだと想います」


ゆっくりと言葉を紡ぐ彼女の声が小さく震える。
潤んだ瞳の奥で、彼女の想いが揺れていた。
何かを訴え掛ける様な真摯な思いに触れて、少しずつ共鳴していく心を止められない。
彼女が零した言葉の雫が胸の中に滾々と涌き出る魂の泉に落ちて、静かな波紋が体中に広がっていく。


「春が必ず来ると分かっているから、冬の寒さも乗り越えられるはず。・・・・・・人の心ももしかしたら、そうなのかもしれないね」


聡い君は僕が言葉に込めた想いを即座に感じ取って、戸惑いの表情を浮かべながら黙り込んだ。
長いような短いような沈黙が、二人の間を流れる。
言い尽くせない想いが交し合う視線に流れ込んで、お互いの気持を静かに手繰り寄せ始める。
このまま永遠とも想える時間を彷徨おうとした心が、君の声で現実に戻された。


「島さんが・・・・・島さんが私に教えて下さいました。温かな春を待ち侘びる、強くてしなやかな心を。厳しい冬の試練を
乗り越える心の強さを!」


彼女の身体を纏っていた光の微粒子が一斉に虹色に光り輝くと、そのまま澄み切った空に向けて大きく羽ばたいていく。
冬の空を焦がす希望の光は、生命の煌きを懸命に撒き散らして、やがて緩やかな時間の中に溶けていった。


無意識に動いた腕が華奢な身体を掻き抱き、己の懐の内へと大切に包みこむ。
壊れぬように。
怯えさせないように。

確かな温もりを懐に抱いたまま、溢れ出る嬉しさを堪え切れない僕に少しだけ早い春の風が微笑んだ。

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