新年初っ端から、何だか意味不明の抽象的な超短編SSをUPしました(汗)
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サラサラと零れ落ちる雪の花弁を見ながら、君が小さく呟く。
冷え切った空気に紛れ込んだ、ささやかな言葉の欠片は柔らかな陽光を乱反射して、、やがて地に落ちていく。
純白の雪が織り成す、幻想的な光のプリズムを見ていると、何故か素直な気持が胸に溢れ出してくるようで。
「手に触れた瞬間に溶けてしまうのは、何だかとても可哀想です」
真っ白な雪にも負けない程の、白くしやなかな指先が躊躇いがちに宙を彷徨う。
降り続く雪の行く末を見据え、その雪の心に同調するかのような君の声が微かに震える。
ふと盗み見た君の横顔に宿る憂い。
声を掛ける事すら憚られる程に、その荘厳で神秘的な美しさの前で心は立ち竦むばかり。
長い睫の先に零れ落ちた雪の花弁は、彼女の心に寄り添うようにして一瞬だけ留まると、次の瞬間、一滴の清らかな雫となって頬を滑らかに滑り落ちていく。
雪の想いを内包した雫が肌に染み込んで行くのを感じつつ、何かを感じ取っているような君の眸に映る光の波。
透き通った光が紡ぎ出す心に、優しさが滲む。
「・・・・・・雪は君に何を伝えていたんだい?」
沈黙を切り崩す言葉を放った途端、ハッとして顔を上げた君の頬に紅が散る。
その艶やかな美しさを目にして、僅かに跳ね上がる心臓の鼓動。
身体全体が少し体温が上昇したような感覚を認めつつ、僕は君の言葉を待つ。
静かに、そして密やかに。
「冷たさの中に隠し持っている、温かな想いを感じてくれて、ありがとうって・・・・・・」
その言葉が届いた瞬間、ある符合が脳裏に思い浮かんだ。
――たぶんそれはきっと、君にしか分からない想い。
君だからこそ分かる気持ちに違いなく。
初めて出逢った時の彼女の印象と、今、彼女が零した雪の言葉が記憶の中で重なり合う。
温かな心を持っている筈なのに、敢えて冷たさを装って接した彼女の本当の想いに気付いたのは、二度目にテレザリアムで逢った時のことだった。
迫り来る時間との鬩ぎ合いの中で、彼女が隠し持っていた真心に触れた瞬間、抱き締めた身体の温もりをまだこの腕は覚えている。
あの時と変わらぬ想いを今でもずっと携えたままで。
だから、僕は・・・・・・。
「雪は表面上の冷たさを装ってるけれど、実は温かい気持を内包していることを僕は知ってる。そう、君がその事を僕に教えてくれたから」
「・・・・・・えっ?」
訳が分からぬまま、どう返事をしたらいいのかと考え込んでいる君の顔が、いつもの聡明な表情と違って何だかとても可愛らしくて堪らない。
少しだけ思考停止状態に陥ったような君は、いつになく心が無防備で、まるで少女のようなあどけない眸で僕を見つめ返すだけ。
そのギャップに微笑ましさを感じながら、僕は巻いていたマフラーを解くと、そっと君の首元に巻き付けた。
「島さん?」
まだ疑問符が頭の中でグルグルと廻っている様な君を見つめながら、少し目を逸らして早口で言葉を紡ぐ僕を、優しい陽光が後押しする。
「昔の君に似ている、この雪も・・・・・そして今、僕の目の前にいる君も僕は・・・・・・」
最後の言葉だけを君の耳元に囁くようにして零し入れた途端、真っ赤になって俯いた君の身体が小刻みに震えだす。
そしてそのまま涙で潤んだ眸を僕に向けながら、君は声にならない言葉を宙に解き放つ。
可憐な唇が微かに動いて、声に出せぬまま紡ぎだされた言葉の雫が、舞い落ちる雪の花弁と同化して、冷たい空間をほんの少しだけ温める。
その清らかな温もりを心に刻み付けて、僕は君の手を取りゆっくりと歩き出す。
傍らにいつも君の存在がある幸せを噛み締めながら。
新雪を一歩ずつ踏み締めながら、共に歩き出す君と僕。
その確かな足跡を胸の奥深くに刻み込んで、いつまでも変わらぬ想いを抱いたまま、僕と君の未来は命ある限りどこまでも一緒に続いていく。
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