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もしもの世界(CJ)

ずっと妄想してました、マチュアが生存している世界観を
自分の中の願望が入り乱れてますが、おぼろげな形の妄想をちょっとカタチにしてみました
何より自分の気持ちの落ち着く先を求めて書き連ねてみました
よろしかったらどうぞ


「元気かい?」

勢いよくドアが開くと同時に間髪入れずに茶目っ気たっぷりな笑顔のジョウが顔を出す

「ノックもなしに部屋に顔を出すなんて相変わらずね」
「クラッシャー育ちのがさつな俺に礼儀を求めるほうが無理な話だって!マチュアだって分かってるだろ?」

まるで少年のような無邪気さで畳みかけてくるジョウに対し、呆れるを通り越して苦笑を漏らすしかないマチュアはキーボードを叩く手をいったん止めた

「まあ!まるで駄々っ子みたいな言い方をするのね」
「マチュアだからこっちだって気兼ねなく言ってんのさ!それとも他人行儀な言い方がよければそうするぜ」

しゃあしゃあと言い募るジョウの表情には、普段のように全ての事象に対して終始気を張り巡らす緊張感は一切見当たらない
一度でもジョウと面識があった者が、今の状況における終始屈託のない笑顔を滲ませるジョウの顔や佇まいを見れば、きっと混乱するに違いない
それほどまでに彼の態度の振り幅は、一言では言い尽くせない位に結構な開きがそこにはあった
まるで気を許している者同士にしか伝わらない、ある種の連帯感のような繋がりが二人の空間を穏やかに満たす

「ジョウったら…オトナをからかうのはお止めなさい」

麗しい声の響きと優し気な眼差しを向けられ、言葉とは裏腹にマチュアの本心から出た訳ではないと分かっているが故に、ジョウはここぞとばかりに内に秘めた本心をチラッと曝け出す

「分かってるって!俺だってこれでも相手を選んで言ってるつもりだぜ!?他の奴らにこんなにぶっちゃけねぇって」

零れ出た本心が意外と悲壮なものではなく、会話のついでに吐露されたことに、マチュアはジョウに気付かれないように整った口の端から安堵の息を漏らした
またその言葉を漏らしたジョウの表情が思い詰めたようなソレではなく、現実生活に人知れず埋没しているごく普通の悩みの一端に近いものであることも、彼女を更に安心させた

「ま、それは光栄ね!超一流のクラッシャーから掛け値なしにそう言われたらお世辞でも嬉しいわ」
「ったく!マチュアの方こそ、反対に俺をからかってんじゃねぇか」

少しぶー垂れた表情でボソッと呟くジョウの姿があまりにも子どもじみていて、マチュアはさらに美しく咲きほころぶ花のような笑顔を浮かべた
そして一瞬の間を置いた後、ゆるりと言葉の雫を零した

「…たまにはそういう他愛のない軽口を叩ける場所も必要よね?あなたは小さい頃からずっとオトナの世界に否応なく入り込んでしまったのだから」

核心を突く言葉の波が穏やかに胸に届いたのに気づいて、ジョウは普段なら徹底的に抗い、理論武装する癖が一切自分の身の内から発生しない状態に驚嘆した
あくまでもさり気なく、そして静かに寄り添ってくるマチュアの声に想いを馳せ、彼女もまた自分とそう変わらない身の上だったことに改めて気が付いた

「とても大変だったと思うわ。クラッシャーダンの息子であるという事実の前では、あなたがどんなに努力しても研鑽を積んでも、人はその事実の方を優先してしまうもの」
「オヤジと俺は違うと粋がってみても、結局はその事実の前では、俺が死に物狂いで掴み取った実績はいとも簡単に霞んじまうからな…オヤジの過去の威光なんて、今の俺には全然関係ないのに」

緩やかに同調していく心が、背中合わせの互いの境遇を一つずつ繋ぎ止めていく

「自ら選んで飛び込んだ道だとしても、きっとそれは永遠に付き纏う影なのね。だからあなたはそれに反発することでしか自分の存在意義を見出せなかったと思うの。無茶を承知で挑むしか、お父様を越えられる術は無いと思っていたのではないのかしら?」

「昔からそうだったし、相変わらず今もそうさ。結局俺のやってる事なんか全てがオヤジの二番煎じもどきだって思われても仕方ない…悔しいが世間ってやつはそんなもんさ」

きっと仲間の前では決して口にはしないジョウの苦悩がマチュアの胸に迫る
彼が人前では絶対に見せない負の感情が止め処なく溢れ出ているのに気が付いて、彼の痛切な想いを懸命に受け止めながら、マチュアは静かに目を伏せた
その一方で漆黒の闇を小さく鋭く切り裂く、一筋の真っ直ぐな光を求めてがむしゃらに突き進むのを諦め切れないジョウの姿が、いつしか自分とダブっている事もマチュアは見据えていた

「確かに世間っていうのは残念だけれど、そんなものかもしれないわね。…だけどね、ジョウ。貴方はお父様が敷いてこられた道をそのまま突き進んできた訳じゃないでしょう?
貴方なりの、貴方にしかできないやり方で、貴方らしく走ってきたのじゃないかしら?
暴論かもしれないけれど、他人の思惑なんて自分が誇りを持って行ってきた事の前では無意味だと思うの。どれだけ命を削って、どれだけ全力を傾け、どれだけ誠心誠意真摯に生き抜いてきたという事実には到底適わないわ。…私もジョウ、貴方と同じ立場だったから尚更そう思うし、そう信じたい…」
「マチュア…」
「自分の信じる道を一心に貫き通すってとても辛いし、過酷な上に周囲から到底理解されるものではないけれど…自分自身の心を迷いや苦悩を捨て去って真実に辿り着いた先に、思い描いた未来が待っていると…私はそう願っているわ」

言い終え振り向いた先に待っていたのは、両の拳をぐっと握りしめ、力強く立ち尽くすジョウの姿だった
口を真一文字に結び、精悍な顔立ちの裏で沸々と崇高な意識を漲らせているような若きクラッシャーの眸が強く深く煌めき始める

「また来る!元気で!」
素早く踵を返して勇ましく走り去っていくジョウの背中に、真っ直ぐで強い眩し過ぎる陽光が燦燦と降り注ぐ
遠く離れていくリズミカルな足音を聞きながら、マチュアは精いっぱいのエールをジョウの背中に送るのだった

「いってらっしゃい、ジョウ!」

*****

ジョウの複雑な胸中を説教じみた言い方ではなく、寄り添って諭せるのは、ジョウとある意味同じ立場だったマチュアだろうなぁ~と妄想した小話です

以前CJのコラムにも書いた話(こちら  です) の延長線上にある妄想話だと理解していただければありがたいです
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