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2004年9月17日サイト初掲載作品
いつも夢見いてた瞬間が思いがけず到来した場合、大体2つのタイプに対応が分かれる。
ひとつは手放しで喜びまくって訳が分からなくなるほど有頂天になるタイプと、もう一つは何が起こったか分からなくなってしまって即座に固まってしまうタイプと。
私自身はてっきり前者のタイプに属すると想っていたのに・・・実際のところ本当は・・・。
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「・・・終わりそう?」
ノックすると同時に半開きになっていたドアから顔を出して様子を窺う。
一心不乱に書類と格闘しているような張り詰めた雰囲気を滲ませたまま、声の主はこちらの方を見ずに声だけ返してよこした。
「・・・今、一番のクライマックスッ!」
何時にも増して切迫した口調が彼の心情を思いっきり表しているようで。
・・・あ。
今、最高潮に煮詰まってる訳ね。
彼の表情を見ずして、彼が投げてよこす口調から彼が今どんな心理状況に置かれているのかを私なりに察することが出来るようになった気がして・・・どことなく嬉しい気持ちになる。
行動派のチームリーダーとして世間から評判されている彼だけど、それは彼のほんの一部分の評価にしか過ぎないことを私・・・そしてチームメイト達はよく分かっていた。
確かに表に出てくる面だけみれば、そう囚われても仕方ないほどのプロフェッショナルな仕事振りだけど、それはこういう表面からは窺い知れない影の努力(きっとジョウはこういう言い方が大嫌いだとは思う)の積み重ねの結果であることに違いなく。
即断即決がモットーのクラッシャー稼業、しかもその仕事を完璧にこなして初めて仕事の成果を認められるこの世界において、一瞬の動揺と判断間違いが死を招くことを誰よりも痛感しているのが彼。
だから彼はまとまった時間が取れるときは絶えず自分自身を鍛錬しているのだった。(勿論遊ぶときは思いっきり弾けまくって遊ぶけれど)
誰よりも何よりもクラッシャーとしての誇り、チームメイトの命を預かっているという責任感、そしていつかは乗り越えていかねばいけない偉大な父親の存在、常に彼を特Aクラッシャーとして注目し続ける周囲からの過剰なプレッシャーをことごとく撥ね返そうととする驚異的な反骨心。
一言では言い切れないほどの複雑で微妙な想いが『彼』という人間を成り立たせていると知ったのは・・・つい最近のこと。
そんな彼を傍で見続けていられることが・・・今の私にとって一番嬉しくて。
甘えたいのも本当。
私だけを見つめて欲しいのも事実。
ジョウに対する気持ちに気付いて欲しくてたまらないのも嘘じゃない。
・・・でも言い出せない。
甘えられない。
素直になれない。
空回りしていくだけの心を持て余しながら・・・時間だけが過ぎていく。
このまま私達は平行線なの?
・・・ねぇ、ジョウは私のこと一体どう思っているの?
「・・・ん?」
不意に背中を向けて書類の束と格闘していたジョウが振り向いて私を見据える。
いきなりの行動に心臓が飛び出しそうに跳ね動く。
「い・・・いきなり何よ!」
自分の気持ちとは裏腹に喧嘩腰の口調になってしまうのは哀しい習性に違いなかった。
咄嗟にそんな言葉しか吐き出せない自分が切なくて・・・悲しい。
「・・・」
ジョウは慌てまくっている私のことなど気にも留めずにずんずんと近づいてくる。
・・・え?!・・・
普段のジョウなら私に腕を掴まれるのでさえも真っ赤になって照れまくるはずなのに、今日は何故か普段と様子が違う。
ジョウは私がビビッているのを知ってか知らずかドンドンと間合いを詰めてくる。
もう既にプライバシー侵害のエリアは軽く踏破していた。
・・・えっ?
・・・えぇっ???
・・・な・・・何・・・???
ジョウはビクッとしたまま固まって動けない私の右手を軽く取ると、頬に近い付近まで顔を近づけてきた。
・・・ちょ・・・ちょっと待って・・・!
ま・・・まだ心の準備が・・・!
頬に掛かっている金髪にジョウは顔を近寄せながら静かに2〜3度吐息を漏らした。
そ・・・そんな、急に・・・!!!
思わず眼を瞑りかけた私の耳元でジョウの声が聞こえた。
「・・・今日の晩飯、カレーライスだろ?アルフィンの髪から漂ってきた匂いで分かった!あぁ〜腹減った」
ピキッ・・・!!!
零コンマ数秒で炸裂した平手打ちはジョウの顔面に見事にヒットした。
「イッテェ〜〜〜!!!いきなり何するんだ!」
頬に手を当てながら憮然とした表情で呻くジョウを思いっきりキツク睨みつけながら、吐き捨てた。
「女心を玩ぶなんて最低よッッッ!!!」
・・・どうして私達っていつもこうなの???
ジョウなんて・・・ジョウなんて大っ嫌い!!!
・・・でもやっぱりそんな・・・そんなジョウが
・・・大好きなの!!!
何時の世も可憐な乙女の恋路は辛く険しい道程なのかも・・・しれない。
矛盾と戸惑いと思い掛けないハプニングを重ねつつ・・・今日も一日が過ぎていく。
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