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CJ最新作『見えない明日に向かって』をUPしました。
最近ハマッている、某三姉妹の長女と次女の超短編です。
よろしかったらどうぞ。
「・・・惚れたの?」
抑揚のない、平坦な声が部屋に刻み込まれる。
感情の起伏を抑え込んだ声の主は、瞼を伏せたままこちらを見遣る素振りすら見せない。
断定的とも思える口調の裏に滲む、姉の揺ぎ無い自信は結果的に自分を追い込んでいるのだと、ルーは気づく。
先程口に含んだ筈のコーヒーの苦味が知らぬ間に舞い戻り、混乱しかけた意識に
更に拍車を掛ける。
狼狽した視線が二度三度、部屋の中をうろうろと彷徨うが・・・落ち着く場所を見失ったまま、やがて時の狭間に引き擦り込まれていった。
「・・・アンタからの返答がないって事は・・・つまり、そういう事なんでしょ?」
言葉が発せられたと同時に、ブルッと全身が身震いし、意識が遥か彼方に弾け飛ぶ。
最早どんな手を尽くしても言い逃れできない状況で、ルーは抵抗する手段を全て放棄した。
・・・どうしたって、ごまかせっこない・・・
・・・おねぇちゃんには・・・どうしても・・・
唇を噛み締め、観念した目付きで視線を泳がせた先には・・・
意外な程に穏やかな表情をした姉の姿がそこにあった。
「・・・ジョウに惚れちゃったかもしれない、私の事・・・怒らないの?」
口にする言葉の端々に滲むのは、苦悩と軽侮と後悔と・・・そして、それにも増して一際強く煌くジョウへの思慕と。
ごちゃまぜになった感情はルーを追い詰め、そして止め処なく責め立てる。
それはある意味、血を分けた姉妹を裏切る結果になり得る可能性を持つものであると心底知っているが故に、言葉を吐き出す度に壮絶な痛みがルーの心を襲い続ける。
そんなルーの葛藤を知っているかのように、ダーナは敢えて突き放した言い方で妹の本音を導き出す。
姉として、血を分けた最愛の姉妹として、強い絆で結ばれたチームの一員として、・・・そして紛うことなき、一人の女性(おんな)として。
「・・・私が怒ってアンタの気持ちが変わるのなら、とっくの昔にそうしてる。私がアンタの気持ちを簡単に捩じ伏せる事くらい、お手の物だって・・・アンタとベスが一番分かってる筈でしょ?」
ダーナの鋭い視線は、ルーの停滞した意識を鮮やかに蘇らせる。
しかし鋭い視線の中に紛れ込んだ、眼に見えない感情は・・・何故かルーの心にそっと寄り添うような温かいものである事に気づいて、思わず目元がゆるゆると緩み出す。
「・・・おねぇ・・・ちゃん・・・!」
言い掛けた言葉の先が途切れ途切れに零れ落ちる。
喉の奥で出掛かった言葉は、出口を求めて羽ばたこうとするが・・・胸の奥に堰き止めたままだった感情に押され続けて、上手く紡げない。
「馬鹿だよ、アンタは。憎くて、憎くて・・・憎たらしいけれど、最高のオトコに惚れちゃうなんて・・・本当にアンタらしいよ、ルー」
燻ったままの想い全てをダーナに言い当てられた衝撃よりも、自分の事を深く包み込んでくれる姉の心情が・・・この上なく、切なく・・・
そして、何よりも嬉しいものであると、込み上げる泪を抑えきれぬまま、ルーの慟哭は続く。
透き通った色に塗り変わっていく部屋の空気に触れながら・・・姉妹の絆は今、ひとつの真実に向けて強く築き上げられていく。
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